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マイクからミキサー、パワーアンプを通ってスピーカから出てくる音の周波数特性は、理想的にはフラットです。実際には特にマイクやスピーカには一定のクセと呼ばれるものがあって、一概にフラットと言い切るわけにはいかないのですが、理解のためにクセの一切無い理想的なシステムで考えます。
すると、スピーカから出てくる音の周波数特性は図のようになります。低域と高域でカマボコみたいに落ちているのは、現実的に考えられる理想的なフラットな特性です。
つまり、スピーカの目の前ではこういうフラットな音が出ているはずなんです。
しかし現実はそうはいきません。こんな経験ないですか?10~20名くらいの会議室で、低い声を出したらやたら響くなあと思った経験。
これがその会議室が固有に持つクセで、実際にそこでマイクを使うと、響くなあと思った帯域でハウリングを起こしやすくなるのです。
例として、200Hzが響きやすい、つまり200Hzにピークを持つ会場の特性を考え、そこの仮想的な周波数特性を描いてみます。会場の『クセ』という表現から『ピーク』という表現にいきなり変えましたが、なんとなくついてきてくださいね。
スピーカの目の前ではフラットな特性なのに、会場の中の反響などで、200Hzあたりがぐんと強調されてしまった結果です。ハウリングはこういう周波数帯で発生します。
普段は意識したり気づいたりすることはないのですが、スピーカから出た音は結構マイクにも入ってしまっているものです。しかし程度問題で、マイクが拾うあなたの声に対して、マイクが拾うスピーカの音がはるかに小さいものだから、ハウリングを起こすまでには至らないのが普通です。
しかし、例として挙げた会場では200Hz付近にピークがあるものだから、この帯域だけ特にマイクに舞い戻りやすいという状況になっています。こういうときマイクのゲインを上げたりすると、200Hz付近でハウリングを起こすことになります。
そこで、EQを使ってその帯域を削ればいいじゃんかという発想になります。
EQで200Hzを削った後です。ごくわずかにまだ200Hz付近がふくらんでいますがこれは作図の怠慢ではなく、実際、特性なんて目に見えるわけじゃねえし、もしかしたら完全なフラットにはなってないかもしんないじゃん。という程度に理解してください。
ともかく、これで会場の特性がだいたいフラットになりました。
じゃあこれで絶対ハウらないかと言うとそうでもなくて、フラットな特性に仕上げた会場でマイクのゲインを上げすぎると、あらゆる周波数帯でいっぺんにハウリングが起こります。『もーん』『ぶーん』『ふーん』『ひー』『ぴー』『きー』『ちー』『しー』なんて音が一斉に出てきます。これはもう避けようがありません。
話し手や歌い手さんに、マイクを口に近づけてもらうか大きな声でがんばってもらうしかありません。
結論から言うと、見えます。
RTA:リアルタイムアナライザという装置と、ピンクノイズ発生装置、完全にフラットな測定用マイクがあれば、画面の上で見ることができます。今ではRTAもPCの上で走りますし、フリーソフトでも存在します。昔の私は、PCに安いRTAソフトを入れて、安いPC用マイクを突っ込んでやってました。精度が必要なくて、なんとなく傾向が見えればいいかな、という程度ならそんなんで事足ります。
2020年代の今はiOSやAndroidでもRTAアプリが普及しています。"realtime spectrum analyzer" などで検索してみてください。1/3オクターブで見えるものが現場では使いやすいでしょう。
ただしこの測定が目に見えて有効なのは、静かな環境でハウリングチェックを行っている時くらいです。バンドが入ってサウンドチェックしている時のかすかなハウリングなど、RTAで視覚的に突出して見えるわけではありません。街角のイベント会場でも、静かだなと思っていても意外と街の騒音レベルが高く、RTAが使いにくくて結局耳に頼るしかない、ということも多いです。