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ハウリングの抑制

ハウリングというのはPA現場だけでなく、カラオケボックスとか小学校の運動会とかでもおなじみのトラブルですね。PAやってて(やろうとしてて)ハウリングを知らない人はいないでしょう。このページでは、この嫌われ者をやっつけます。

ホテルなどの設備の場合、納入業者さんの腕が良ければあんまり悩まされることはないかも知れませんが。


そもそもなぜハウリングが起こるのか
  • 出力信号が入力信号に戻る(フィードバック)によって発信回路を形成し、なんたらかんたら

などという理屈はともかくとして、マイクをスピーカに近づけたら起こるんだよ、という経験的な理解の方が大きいでしょう。なので、一般的には

  • マイクとスピーカの距離が近いことが原因

という端的な理解でも良いでしょう。実際これが直接的な原因で、マイクとスピーカをキスさせたら音量を下げる以外にハウリングを止める方法はありません。しかしPA屋さんとしては、

  • なんらかの原因で共振している

という現象が起こっていることを頭に置いてください。共振の原因となるものはたくさんありますが、おおむね会場のクセ・特性として片付けることが多い気がします。事実、屋外では屋内ほどにはハウリングに悩まされることはありません。

そういうわけで、ハウリングの抑制は会場のクセである共振周波数を見つけ、この帯域をカットするというのが基本的な攻め方になります。そのためにミキサーとパワーアンプの間にGEQ:グラフィックイコライザを入れ、このイコライザで調整をします。

GEQ(グラフィックイコライザ)

GEQ(グラフィックイコライザ)とは、おおむねこういう格好してます。ホームオーディオでも使いますし、詳述は避けます。低域から高域までのトーンコントロールをきめ細かく行うデバイスと理解しておけばOK。現場では『G』を略して『いーきゅう』と呼ぶことが多いです。

写真の機種では31.5Hzから20kHzまで、1/3オクターブごとの31ポイントの調整ができます。それに加えて出力調整・ローカットフィルタ・EQレンジスイッチなどついてますが、ここでの説明はオミットします。

それぞれの周波数のツマミは、センターがフラット・上げるとブースト・下げるとカットになり、それぞれピーキングタイプになっています。

ピーキングタイプというのは、下図で中域のカーブのことね。つまみを増減するとその周波数だけがブーストまたはカットされ、他の周波数帯には影響を及ぼさないタイプです。

ハウリングのやっつけかた

ここでは、固定設備で一応の設置調整がなされているという想定で書きます。これから書く作業は、システム全体の周波数特性を会場の状態に合わせて調整し、ハウリングが起きにくいようにするものです。ゆっくりと時間のあるときに行ってください。ライブでは殺人的なスケジュールの中でやることもあるでしょうけれど。

もし、固定設備でもともと調整がなされている場合は、その状態をメモしておいた方がいいでしょう。途中でワケが分からなくなったら、とりあえず元に戻すことができますので。


まず最初に

まず、EQのつまみをすべてフラットにします。ソロバンを払ったように、きれいな直線になりましたね。そして、ひと目盛が何デシベルなのかを確認してください。たいがい3dBだと思います。フルにブースト/カットした数値を目盛の数で割れば出るはずです。

普通に音を出してみる

で、普通の運用状態にして普通に音が出ることを確認してください。

そして、マイクを一本、これも普通使う位置に置き、スイッチを入れたままにしておきます。スタンドに立てておくといいでしょう。マイクの向きも普通使う時と同じにします。もしマイクが何種類かあるのなら、一番ハウリングを起こしやすいものを選びましょう。


わざと少しハウらせる

次に、マイクのフェーダをゆっくりと、軽くハウリングを起こすまで上げてください。手元に別のマイクを置いといて、そのマイクを使って適当に声を出しながらやるといいです。この先の作業もね。

ハウリングが起きたら、ほんのちょっとフェーダを下げ、ハウるかハウらないかのぎりぎりのところにしておきます。

ここから先は、わざとハウリングを起こしてその周波数を調べますから、慎重に操作してください。慌ててやると、とんでもないハウリングを起こす可能性があります。あなたの耳もスピーカもアンプも傷めます。


ハウる周波数をカット

これは、このページの最初で書いた共振周波数を探る作業です。

EQで一番左のつまみ(一番低い周波数)のつまみを、とてもゆっくりと上げてみます。手元のマイクで低い声を出しながらやると良いです。

9dBもブーストしてみて何も起こらなければ、その周波数については問題ありませんので、そのツマミをフラットに戻します。


低い方から高い方へ順に繰り返し

同様の操作を順に右へ(高い周波数へ)繰り返して行きます。手元のマイクで出す声もそれに合わせて少しずつ高くしていきます(この感覚は慣れるまでつかみにくいと思いますが)。

やっているうちに、ツマミをちょっと上げたらハウるところが出てくるはずです。そこがあなたの会場の共振周波数ですから、そのツマミを3dBほどカットします。もし、3dB程度のブーストでひどくハウるようなら、6dBはカットしてもいいでしょう。

このカット量、経験を積めば指先が勝手に決めてくれます。いちおう3dBとか6dBとか書きましたが、これはオペレータさんによって判断基準が違い、思い切りカットする方もいらっしゃるようです。


結果はどうかな?

上記の操作を一番右(一番高い周波数)までやり終えたら、終了です。マイクの音をいろんな条件で出してみて、ハウりにくくなっていることを確認しましょう。

もし心配なら、EQは今のままにして『マイクのフェーダをゆっくりと』からをもう一度繰り返すといいでしょう。ただし一度調整した後ですから、各つまみの今の位置がフラットな状態だという基準にして作業を進めてください。

この作業は、とことんまでやり込むと本当にハウリングが起きにくくなります。

それでもマイクのフェーダやゲインを上げすぎると、やっぱりハウります。でもこの時は、低い周波数や高い周波数、とにかくいろんな周波数でのハウリングがいっぺんに起きるものです。これはその会場の周波数特性がフラットになった証拠ですから、それ以上調整しても意味がありません。

一回EQを切ってみよう

別にやらなくてもいいんですが、時間があれば経験としてやっておいた方がいいです。ほとんどのGEQにはイコライジングをカットするスイッチがついていますから、一度これを切り替えてください。調整したツマミはそのままに、EQの効果がなくなります。手順は下記の通りです。

  1. EQは活かしたまま、何か聴き慣れた音楽を再生して聴いてみる
  2. 音量を下げきり、EQをカットするスイッチを切り替える
  3. もう一度、さっきの音楽を聴いてみる
  4. 音量を下げきり、切り替えたスイッチは戻しておきましょう

EQをOFFにすると、スピーカや会場のクセが戻ってくると同時に『なんか分厚い』サウンドになっていることでしょう。EQをONに戻すと、サウンドがすっきりとするかわりに『なんか物足りない』感じになっていると思います。つまり、ハウリングの抑制は音質を犠牲にしてしまうことが多いのです。