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マイクの音づくり

さて、いよいよプロフェッショナルオーディオっぽいこと書こうかな。

でももしかしたらオカシなこと書いていたりするかもしれません。もしご指摘あればお手柔らかにこっそりとコンタクトフォームかfacebookでお知らせください。

ここでは、特にMCさんやスピーチの声の作り方を書きましょう。ホテルなどではまず多段パラメトリックEQなどないでしょうから、それを前提に書いて行きますね。

ミキサーのインプットセクション

ミキサーのインプットセクション(チャンネルストリップ)って、あらかたこの図みたいなもんですね。この節で必要のないチャンネルアサイン・CUE(機種によりPFLとかSOLOとか呼んだりする)・AUX-SENDなんかは略しています。各ツマミの役割を大雑把に書きます。説明の都合上、上からの配置順にはなりません。

GAIN (ゲイン)

読んでそのまんま、『感度』 です。ゲイントリマと呼んだりします。

ミキサーの扱う入力は、電圧にしてマイクの数ミリボルトからCDプレーヤなどの数百ミリボルトまであります。ですから、仮にこのGAINトリマーがなかったら、マイクはいくらフェーダを上げても微かな音しか出ないでしょうし、ライン機器などはちょっとフェーダを上げただけでがつんと音が出てくるでしょう。

様々なレベルの機器を、一旦同じレベルにそろえるための調整を行います。つまり、マイクのような微小レベルの音源とラインレベルの音源を同等に扱うためのものです。

微小レベル信号にはゲインを上げ(右回し)、レベルの大きいものはゲインを下げて(左回し)対応します。

適度なセッティングは、マスターフェーダと当該チャンネルのフェーダをそれぞれ0dBにした時に、適度な出力が得られるポイントです。ですから初めてゲインを設定するときは、まずゲインを絞りきった状態でマスター&当該チャンネルフェーダを0dBにし、マイクならしゃべりながら、CDなら再生しながら、ゆっくりとゲインを適正出力になるまで上げていきます。

同じマイクでも、MCさんなら-40dB程度になりますが、バスドラムになると-10dBかあるいはそれ以上の値になったりします。

PAD(パッド)

上述のゲインを下げきっても対応できない、高レベルの出力をする機器からの入力に対して使用。これはスイッチになっていて、ONすれば(たいてい)-20dBの減衰を無条件に行います。

分かりやすく使い方を説明するなら、何を(特にゲイン)どういじっても音がひずむ・割れる、って時にONする、という程度でいいでしょうかね。実際私は知識の浅いスタッフにはそう説明しています。

HIGH(ハイ)

高域(10~12kHz)以上をブースト/カットします。ほとんどの機種でシェルビングタイプ。(後述)

MID(ミッド・ミドル)

中域(2kHz程度)あたりをブースト/カットします。ピーキングタイプ。(後述)

MID FREQ(ミッド・フリケンシー)

ちょっといいミキサーになると、上述MIDの中心周波数をこのツマミで可変させられます。だいたい、300Hz~5kHzくらいまで可変させられます。この可変のことをミッド・スイープと呼んだりします。これがあると、音づくりの自由度が高くなります。今では低価格ミキサーにもついてたりします。

ついでに、もっといいミキサーになるとさらに、このMID-MID FREQの組み合わせが2つあって、さらに自由度の高い音作りができます。自由度が高いということは、いじりすぎてオカシな音を作ってしまう可能性もある、ということです。もっともバンケットにそんなミキサーはあんまり置いてないでしょう。

LOW(ロウ)

低域(200~100Hz)以下をブースト/カットします。シェルビングタイプ。(後述)

PANPOT(パンポット・パン)

音の定位を決めます。ホームオーディオのBALANCE(バランス)と似たようなもんです。

シェルビングタイプとピーキングタイプ

さっき、いきなりシェルビングタイプとピーキングタイプという用語が出てきました。これは、イコライザの特性と言うかコントロールの仕方を言うもので、言葉でごちゃごちゃ説明するよりもまず、図を見ていただきましょう。

一般的な周波数特性のグラフになっています。左の(低域の)ブルーで表した特性カーブで、上側のカーブがLOWを上げきったもの、下側のカーブがLOWを下げきったものです。以下、中域・高域ともに同様です。この図にて、低域と高域のブースト/カットのカーブがシェルビングタイプ。ある周波数以上(以下)を全部まとめて調整します。

中域のカーブがピーキングタイプ。ある特定の周波数帯域のみをブースト/カットします。さらにこの帯域幅(Q)を調整できるイコライザもありますが、パンピー(一般peaple)レベルのミキサーには搭載されていません。

また、ピーキング・シェルビングどちらにおいても、対象周波数をスイープできるものはパラメトリック・イコライザと呼ばれます。一般的に、LOWと HIGHがシェルビングタイプ、MIDがピーキングタイプになっており、ちょっと気の利いたミキサーならこのMIDにて中心周波数を可変(ミッド・スイープ)できるようになっています。ミッド・スイープがついていないものは、中心周波数が2kHzあたりに固定されています。

さて、MCさんやボーカルの声づくり

ブライダルであればまず、MCさんの声を作っていくわけですが、これは開宴前にMCさんがやってきて一番最初の方でやるべき作業です。最初に言っておきますが、素直な原音があって始めてトーンコントロールは意味を持ちます。つまりマイクは選んでよ、って話で、実際家電店で売られているカラオケマイクは国産であってもひどい音のが多いものです。

このサイトはブライダルを軸に運営開始しましたのでこんな書き方になりましたが、ライブでのボーカルについても同様です。

 さて、ここは経験と勘の世界ですから、ケーススタディでいきましょう。

まずは全てのトーンコントロールをフラット(ツマミ指示が12時の位置)にしておきます。会場によっては、会場の鳴り方のクセを吸収するために『こんな調整を基準にしている』って場合もあるでしょうが、その時は『こんな調整』の状態にしておきます。


声が低くて『ずどん、どすん』と響いてしまう

ちょっと聞いたところ重低音が効いて気持ちいいのですが、もともと明瞭性に欠ける音ですから、体に響くという疲労も相まって長時間だと疲れます。これはLOWをカットすればOKです。まあこれは誰でもやるでしょうね。

カット量は、『ちょっと低域が足りなくなっちゃったな』という程度がいいでしょう。洋画のオープニングのナレーションばりにドスン・バスンと響く重低音はMCには不向きですし、あれはあれで計算された音づくり(サウンド・スイートニング)がされているから素敵に聞こえるのです。ミキサーについている程度のEQでの再現は難しいですから、マネしようなどと思わないことです。

ライブだと、明瞭性を少し犠牲にして『ガッツのある声になる』ことを優先してLOWのレベルを気持ち高めに(カット量を少なめに)決めることもあるでしょう。


なんか、ごもごもとこもった声になる

バケツをかぶって喋ったところを想像すれば、『こもり』はイメージできるでしょう。

これもLOWのカットで対処してしまいがちですが、LOWの守備範囲より少し高い周波数、150~300Hzあたりでのカットが必要になってきます。でもMID は2kHz固定だしどうしよう、って時は、LOWカットで対応するしかなさそうですね。でもこの場合カット量を多めに取る必要があり、こもりが取れた頃にはカリカリの薄い音になっています。

こんなとき、ちょっとこもりが気になるかな・・・・という程度にLOWのカット量を調整し、HIGHを少しブーストして相対的に明瞭性を稼ぐという方法もあります。ただし、ブーストにはハウリングの危険を伴いますから、慎重に調整しましょう。

MIDスイープつきなら、MID FREQを150Hz~300Hzあたりでうろうろさせながらカットし、いいところを見つけます。ただこの方法は慣れないと分かりにくいので、MIDのレベルをわざと少し上げておいて喋りながらMID FREQを上げ下げし、一番こもりが気になるポイントを決めてMIDのレベルを若干カットします。これもやりすぎは避けたほうがいいでしょうね。女性の場合、このあたりの周波数帯域には『色気』が含まれています(俺の主観)。


きんきん、黄色い声になっちゃう

MIDをカットします。ミッドスイープつきなら、1kHz~2kHzあたりでいいポイントをさぐってみてください。さぐり方に慣れない場合、逆にMIDを少し極端にブーストした状態で、MID FREQをゆっくりと左から右まで回してみることです。そうしてて、その『きんきん』が一番うるさく感じるポイントがカットすべき中心周波数ですから、そこをカットしてやります。

ただし、あんまり極端にカットせず、ちょっと削る、という程度にしましょう。やりすぎると力も説得力もない声になりますし、そのあたりにその人のキャラクターが出ている場合があります。それに、人間の声ってこのあたりの情報量が一番多いって気がしませんか?電話の音声の周波数帯域は3kHzかそこらまでです(たしかそうだった)。その意味をよく考えて調整しましょう。

また、女性ボーカルで元気さを押し出したい時は、『きんきん』を活かし気味にしておくといいこともあります。

余談ですが、最近若い男性の中にもきんきん声が増えてきました。


さ行の子音がやたら耳につく

いわゆる『歯擦音:空気が歯を擦る音』の問題で、S、SH、CHなどで始まる音がうるさく感じられます。内緒話をするときに、人差し指を口に当てて『し~~~っ!』とやる、あの音です。これも誰でもやるでしょうが、HIGHをカットします。ただし、やりすぎると明瞭性が失われますから注意しましょう。

EQ以外の手法として、ちょっといいコンプレッサに内蔵されている『ディエッサ』を使うというのがあります。これは、S,SH,CH といった発音で発生する歯擦音のみにコンプレッションをかけるという仕組みになっています。


た・て・と・ふ にショックを感じる

これはオペレーションの問題ではなく、話し手の発音に問題があることが多いです。でも今すぐそれを直せと言っても直らないだろうし、まず言いにくいし。かといってポップガードを立てるわけにもいかないし。

まず、マイクのグリルボールの内側にあるウィンドスクリーン(スポンジみたいなの)がボロボロになっている可能性がありますのでチェックしてください。ぼろぼろになっていたら、何か入れましょう。ほんとは何でもいいって訳ではないんですが、100円ショップにあるフェルトとか、ティッシュを何枚か重ねたのとか、タオルを少し切ったのとか、いろいろ試してみてください。

で、後から余裕のある日に、マイクを買い換えるなりウィンドスクリーンを買うなりしてくださいね。

現場で話し手でできる対策としては、

  • マイクの頭を唇よりも少し下、つまりあごのあたりに構えて
  • マイクの頭を口と言うよりは鼻か眉間に向けて
  • 軸をあえてずらすことでポップノイズを防ぐ

というくらいでしょうか。このとき若干ローが切れますので、必要に応じてローを足してください。